森中 巧 vs 打田 十紀夫 クロストークショー レポート

2022年1月15日(土)に秋葉原 M’s Spaceで『森中 巧 vs 打田 十紀夫 クロストークショー』を開催しました。このイベントはタイトル通り、モーリス楽器製造のマスター・ルシアーである森中 巧(もりなか・たくみ)と日本を代表するフィンガーピッキング・ギタリストの打田 十紀夫(うちだ・ときお)氏のトークショーとミニ・ライブです。

※感染症対策として、入場時の検温、手指消毒。空調整備の常時稼働、会場出入口と換気窓の常時開放などを行いました。

打田 十紀夫 フィンガーピッキング・ギタリスト
打田 十紀夫(フィンガーピッキング・ギタリスト)
森中 巧 モーリス楽器製造 マスター・ルシアー
森中 巧(モーリス楽器製造 マスター・ルシアー)

お二人はフィンガースタイル・ギターのファンにはお馴染み。各種楽器ショーなどでも、カップリングされますが、意外にも対談形式でのイベントは初めてとのこと。

事前に主催者からは、

・ギターの材と音の話
・使いやすいギターとは
・メンテナンスについて
・ルシアーメイドについて

という主な項目こそ提示しましたが、詳細はお二人の事前打ち合わせ無しの真剣勝負。森中の専門知識と製作ノウハウ。打田さんは弾き手として、ユーザー代表としての意見と楽器の扱い方などの質問。互いに日本最高峰のトーク・バトルが繰り広げられました。今回のトークショーは約80分、ミニライブも約15分という大ボリュームながら、打田さんの軽妙なトーク術により、一瞬の隙もないトークショーとなりました。

イベントを約15分に編集した動画を下記にアップしていますので、どうぞご覧ください。

以下に、トークショーからいくつかのトピックをピックアップしてみました。


ギターの材と音の話

木材の乾燥状態について

打田 : モーリスでは色々な木材が使われています。木材の種類だけでなく、それぞれの木材の乾燥状態でも違いが出ると思います。もし、乾燥させないでギターを作ったらどうなりますか?

森中 : 木材の乾燥が不十分なのにギターを作ってしまったら、壊れてしまうと思います。それに音も良くないですね。モーリスでは、木材を仕入れた際に、木材屋さんで天然乾燥を半年ほどしてもらいます。そして、モーリス工場でも人工乾燥を最低半年から1年以上します。その後、やっと製材して使っています。

打田 : そうやってデビュー。デビューって言ったらおかしいけど、デビューまでの下積みが長いわけだよね

森中 : そうですね。動きだすまで2~3年かかりますね。

打田 : それだけ木材を寝かしておくとなると、会社としても、製作者としても余裕がないとできないですよね?

森中 : そうですね。

時間の経過とともにギターの音は良くなっていくのかについて

打田 : “時間の経過とともにギターの音は良くなっていくか?” については、どう思いますか?

森中 : 結論から先に言うと自分は“良くなっていく”と思っています。 『木』は植えられてから伐採されるまでの名称を『樹木』と言います。それが伐採された瞬間に『木材』に名称が変わります。樹木が植えられて伐採されるまでの期間と同じ時間をかけて、木材は乾燥と硬化していきます。例えば樹木が伐採されるまでが三百年なら、同じ時間をかけて木材は硬化して、最終的に炭化します。その過程で音が良くなっていくと考えられます。

打田 : 『樹木』が『木材』に。さらに『楽器』として完成した後も“弾くと音が良くなっていくか?”という点についてはどうですか?

森中 : 弾いた方がさらに良くなると思います。フィンガースタイルが好きな人なら、ずっとフィンガーで弾き続けると良いでしょう。

打田 : 僕は新しいギターなどで「大きな音を出せば音が良くなるんじゃないか?」って、ストロークで弾いてみたこともあるんですけど、途中から「何やってんだ??」ってなっちゃう(笑)。だから、「好きな音楽を弾いてあげる」ので良いと思いますよ。

使いやすいギターとは

打田 : 以前、雑誌のアンケートで“使いやすいギターとは?”について答えたことがあります。他の多くの人が『音』と答えていましたが、僕は「『音』『見た目』『弾きやすさ』の3つを三等分」と答えました。いくら音が良くても、弾きにくいとコントロールできないから、良い音楽を弾けないんですよ。

打田十紀夫モデルについて

打田 : 僕のモデルについて語ると、ボディはOOOより少し大きいぐらいです。ボディの厚さは、深いほど音の深みが出ますが、逆に、浅い方が音の出が速くて、僕は好きです。速いと言っても0.00何秒とかの違いですが。

SC-123UとSC-145Uでは、ナットの溝も特別な加工をしてもらっています。これは6弦が少しだけ外側を通るようにしています。この溝加工で親指を無理に伸ばさなくても6弦を親指で押さえられます。大手と呼ばれるブランドでもこのような仕様は少ない中、森中さんのギターは「弾き手と一体感を」という(イベントでの森中さんのプロフィール)紹介通りになっているギターです。

モーリス SC-123U 打田十紀夫シグネーチャーモデル
Morris SC-123U 打田十紀夫 Signature Model
モーリス SC-145U 打田十紀夫シグネーチャーモデル
SC-145U 打田十紀夫 Signature Model

カッタウェイ

打田 : カッタウェイの有無は音に影響があると思いますか?

森中 : 製作者の間でも意見が分かれるところであります。が、私は「それほどない」と考えています。サウンドホールから上の部分は影響が少ないと思います。

打田 : 弾き手としては、カッタウェイがないギターを弾く時は、あらかじめ弾く曲をインプットしておかないと「あっ」とつっかかってしまう場合があるんです。左右対称にこだわっている人ならともかく、僕はカッタウェイがある方がいいと思います。

ピックガード

打田 : ピックガードの有無は音に影響がありますか?

森中 : 私は「ある」と思っています。ですので、フィンガーピッキング系のギターには貼りたくありません。

打田 : 両側にピックガードがあるモデルもありますよね?

森中 : ジャンルによっては大丈夫です。ストロークで弾く方にはピックガードがないとすぐにココ(ピックガードがあるべき位置)にキズが付いてしまいますので。ひどいと穴が開いてしまう場合もありますから。

打田 : そんなのあるんですか?

森中 : 結構いますよ。修理で持ち込まれることも多いです。

メンテナンスについて

ネックのそりについて

打田 : 「弾いていて、弾きにくくなった」などはネックの反りなどが原因の場合が多いと思います。ネックの反りについて教えてください。

森中 : ネックが反っているかの具合を目視で見てわかる人もいると思います。しかし、ほとんどの人は目視ではわかりにくいと思うのです。そこで良い方法があります。この方法はある程度弦を張って、テンションをかけます。テンションをかけてあげると弦はある程度真っすぐになりますよね。

ギターを抱えた状態で“左手で6弦1フレット付近”を軽く押さえます。
次に、“右手の人さし指を6弦7か8フレットに”置いて下さい。
それから、“右手の親指を伸ばして、12フレットを右手親指で押弦”します。
その状態で、“右手の人さし指で6弦の7フレットか8フレットを叩いて”ください。

打田 : カチカチ音がしますね。

森中 : はい。その軽くカチカチと鳴る状態が“軽く順反り”という状態です。

打田 : この軽く順反りという状態が良い状態ですか?

森中 : はい。“真っすぐ”というのは、あまり良くないと思っています。よほどフレットの状態が良くないと音がどこかビレてしまいますし、音も軽く順反りの方が真っすぐよりも、少しだけですが良いと思います。

打田 十紀夫 うちだ ときお

ギターの保管方法

打田 : ギターの保管方法について。ギターをケースにしまった方が?それとも、出しておいた方が?どちらが良いのかについては、どうお考えですか?

森中 : 今、研究中ですが、私は、ちゃんと管理ができていればどちらでも良いと考えています。ただ、ケースに入れる場合は、湿気がこもらないように注意してください。逆に、乾燥しすぎるのも良くないので、加湿も吸湿もできるようなもの(Boveda製品など)を入れて調整してください。

打田 : 湿気がある状態で、ハードケースの鍵をかけてしまうと?

森中 : 湿気が入ったままではカビの原因になるので注意です。

打田 : 出したままだと?

森中 : 室温が常に20℃ぐらいで、湿度が40から50パーセントぐらいを保てるのが一番良いと思っています。今、私も1年ぐらい出しっぱなしにしてみて、自分で実験しています。よく見ていてあげたので結果は大丈夫でした。

打田 : お住まいは松本市でしょ?

森中 : 夏はそこそこ暑いし、冬はギターが凍り付くほど寒いです。部屋の中でも氷点下近いので(笑)。

打田 : ウチは毎朝ゆでたまご作るでしょ?あれが良くないよね(会場爆笑)。蓋をしたらゆでたまごは出来ないよね?僕の弾き手としての観点では、ケースにしまうと弾く回数が減ってしまいます。まして十本とか持っている人は弾く度に出すのが面倒になって弾かなくなっちゃう。だから、いつでも弾けるように、よく弾くギターほど出しておきます。なにかフレーズが閃いた時に、ケースから出して、チューニングして・・「あれ?どんなフレーズだっけ?」と忘れてしまうことも。なので、すぐに弾けるようにしています。

Boveda 49%RH - 楽器用湿度調整剤
Boveda 49%RH(楽器用湿度調整剤)

ギタースタンド

打田 : ギターを出しっぱなしにする場合はどんなギタースタンドが良いですか?ネックから吊るすタイプのスタンドがありますよね?ネックにはそういうスタンドが一番良いと僕は思っていますが、どうですか?

森中 : 他にもボディを置くタイプもありますよね。スタンドで一番良くないのはネック(の中央付近)で支えるタイプです。少し力を加えるだけでもネックは曲がってしまうことがあります。私は製作や調整する際に、ネックピロー(作業時にネックを支える用具)を使います。ピローの場所が、5フレット付近か、ナット付近か、だけでも、ネックの状態は変わります。調整の内容にもよりますが、私の場合、ナット付近にネックピローを置いています。最もよくないのは、その時々で置く場所が変わることです。それぐらいネックはデリケートです。3つのタイプのスタンドならネックから吊るすタイプが一番のような気がします。

モーリス楽器製造にて ビルダーによるネックピロー使用による製造工程
モーリス楽器製造 ネックピロー使用による製造工程
HERCULES GS414B PLUS
HERCULES GS414B PLUS(ギター・ベース用スタンド)
HERCULES 壁掛け用ハンガー
HERCULES 壁掛け用ハンガー
HERCULES ギターラック
HERCULES ギターラック
HERCULES HA206
HERCULES HA206(ネックピロー)

お客様 : 他に横に立てかけるタイプもありますよね?

森中 : ありますね。それも大丈夫です。ウチも工場ではそのようにして、ずらっと何本も立てかけてあります。

モーリス楽器製造 製作中のギター

ハードケースとソフトケース

お客様 : ケースにはハードケースとソフトケースがありますが、それぞれの違いも教えてください。

森中 : ハードケースは密閉性が高くて、衝撃にも強いです。ソフトケースは素材にもよりますが、湿気がこもりにくいというのが特徴です。衝撃という点ではハードケースだと思いますが。

打田 : でも、家で衝撃を受けるとしたら大地震があった時ぐらいだよね?そういう時はギターよりも自分の身を守らないと(笑)。

弾かない時に弦を緩めるか、緩めないか

打田 : ギターを弾かない時に、弦を緩める、緩めないについても諸説あります。製作者からするとどうですか?

森中 : ギターの状態にもよりますから、それぞれのギターによって違うと思います。ただ、一般の人は状態を見極められない人が多いと思います。その場合、少し緩めておくのが安全だと思います。弦を張りっぱなしにすると、トップの異常な変形や駒が剥がれたりするトラブルがありますので。

打田 : ネックよりもトップにトラブルが出る?

森中 : ネックの曲がりはたいていロッドで調整できます。しかし、トップはテンションが過度にかかって、膨らんだ状態のまま放置しておくと大きなトラブルになります。特にギターが完成して1年か2年ぐらいはトップがよく動く時期です。その後、2年か3年ぐらい過ぎると固まってきますから、対処もできます。ですので、特に、完成して1年後か2年後ぐらい弦を少し緩めておいた方が良いと思います。

打田 : 僕は「弦を緩めない派」なんです。でも、緩めない派と言いながらも長期間弾かないギターは少しだけ緩めています。家に置いてあるギターは全弦半音下げにして(チューニングを)合わせてあるんです。部屋でパッと手に取って、ちょっと弾くぐらいの時には。他にも(テンションが弱い)オープンGとかにしておくという手もあります。これなら、弦を緩めないに入るでしょ?(笑)


いかがでしたでしょうか?
本イベントは次回の開催を検討していますが、コロナ禍の影響で見合わせています。詳細が決まりましたらお知らせします。

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